プロジェクトストーリー

金沢市海岸林の保全に向けた管理手法の検討

金沢市の海岸線は延長約9.2kmに及び、粟崎から金石、大野、専光寺、安原へとつづく、幅が約150~450mの海岸林が分布しています。

海岸林に生育する樹木は、三保松原(静岡県)、虹の松原(佐賀県)、気比の松原(福井県)といった観光地があるように、クロマツが中心です。

しかし、1905年以降、日本全国でマツの集団枯損が発生、被害範囲が北上し、昭和54年度には全国でピークを迎え約243万㎥が枯損するという状況になりました。

金沢市では、平成20年度から金沢海岸林再生事業が行われており、松枯れ被害は減少しつつあるものの、毎年300本以上が被害木として伐倒駆除の対象となっている状況が続いています。

そこで、弊社では以下に着目した業務提案を行い、現在も継続的な取組を行っております。

  1. 金沢市域海岸林を空中探査することにより、広域に渡る海岸林の資源量の解析や「松くい虫被害」の把握
  2. 効率的な被害木調査方法の構築や今後の海岸林管理の方針の検討
管理手法の検討に向けた業務フロー

取り組み内容の紹介

1.令和2年度:基盤となる情報の整備及び解析

近年のドローン、画像解析技術やGIS(地理情報システム)の進展は目覚ましく、調査対象林分に入ることなく、撮影画像の解析等から立木調査を行う方法が確立されつつあります。

弊社でも積極的に最新の機器やソフトを活用し、樹木の位置、生育状況(松くい虫被害の判定)、樹高といった基本的なデータを取得するとともに、防風機能の評価や要対策箇所の抽出といった解析作業を行いました。

写真撮影用ドローン
レーザースキャナー搭載ドローン
ドローンで撮影した航空写真
レーザースキャナーで取得した点群データ

2. 令和3年度~:効率化の検討

これまでの海岸林の主な管理手法は、地上からの調査によって松くい虫による被害木を探査し、冬季に伐倒駆除を行う等、やや対症療法的な手法がほとんどでありました。

そのため、対策が必要な範囲の抽出を簡略化することを目的として、市域の海岸林を概ね1haのブロックとなるように区切り、樹木の分布状況、被害の発生状況や対策の履歴等を継続的に整理することとしました。

また、各種作業に関与する業者及び団体が地域や年度によって様々であったため、整理されるデータの内容及び精度はまちまちでした。

このため、調査手法及び取得するデータの内容及び精度を担保することを目的として、松くい虫被害の把握作業をマニュアル化するとともに、作業において使用する帳票の統一を図りました。

ブロック毎の管理帳票

3.今後の展望

地方公共団体において、一般会計に占める農林水産業事業費の割合は数%であり、特に林業分野において使用できる予算は極めて限定的です。

限られた予算、労力で確実な成果を得るには、守るべき、かつ守ることの可能な松林を選別し、防除努力を集中するしかないと思われます。
実現可能な計画に基づき、小さな成功を積み重ねることが、地域の松や松林を守ることにつながるでしょう。
そのため、薬剤等による防除を継続するエリア、抵抗性マツへ移行するエリア、広葉樹への樹種転換を図るエリア等、松くい虫に係る対策手法の決定支援に向けた解析、を提案・実施していく予定です。

また、目指すべき海岸マツ林の姿、地域住民や企業による協働の推進、海岸林の利活用の推進及び松くい虫対策の移管等についても、検討・提案していく予定でおります。