
ワンチームで成し遂げた珠洲市の復興計画へ繋がる第一歩「令和6年能登半島地震からの被災現況調査~珠洲市~」

――CHAPTER 01
3社の強みを活かし一つのチームに
令和6年1月1日に発生した令和6年能登半島地震(以降、「能登半島地震」と記載)では、地震動による家屋倒壊等により、甚大かつ広域的な被害が生じた。
能登半島地震により大きな被災を受けた珠洲市について、被災状況や都市特性を調査分析し、自治体における復興まちづくり計画策定や、今後の復興手法等の検討に向けた基礎資料を作成するため、被災現況調査業務が国土交通省より企画競争として発注された。
日本工営都市空間株式会社、大日本ダイヤコンサルタント株式会社、アルスコンサルタンツ株式会社の3社が共同提案体(JV)を形成し、3社それぞれの技術力や情報をあわせ作成した提案書により、業務の特定に至った。
――3社が共同提案を行うに至った経緯を教えてください。
古市:能登半島地震から約2ヶ月が経過した3月中旬頃に、国土交通省より本業務の企画競争実施の公示がありました。当社は、平成23年3月11日に発生した東日本大震災、平成28年4月14日に発生した熊本地震の復興業務経験があり、企画競争にエントリーしたいと考えていました。そんな矢先に、大日本ダイヤコンサルタント株式会社より共同提案体としてのお誘いがありました。

古谷:当社は以前より、日本工営都市空間株式会社、アルスコンサルタンツ株式会社の両社との面識がありました。今回の企画競争に勝つためには、都市開発部門に強い日本工営都市空間株式会社と、地元石川県で幅広く事業を展開し地域社会に精通したアルスコンサルタンツ株式会社と力をあわせることが最善と考えました。
島:大日本ダイヤコンサルタント株式会社は、能登半島地震発生直後から、各インフラ施設の被災状況を把握するための緊急点検の要請に応え、石川県の復旧・復興に大きく貢献されている企業です。また、総合建設コンサルタントとして幅広い分野で強みを持つ企業であり、そのような企業から共同提案体のお誘いを受けたことは誇らしかったです。
3社それぞれがお互いの強みを理解し共同提案体として協力体制を築けたことは、かなり稀で貴重なことであったと考えます。
――CHAPTER 02
様々なリクエストに応えつつ、地域の実態を把握し可視化
今回の災害は被害状況が甚大、且つ、市町によって被害状況が多様であり、三方を海に囲まれ山がちな半島といった地理的に制約があることによりアクセスも困難であった。また、地方自治体は避難所運営、応急復旧に人的リソースが割かれ、復興への取組みを推進することや被害の全容を把握することが困難な状況であった。
そのような中で、当JVは国交省や珠洲市から様々な被災現況把握のリクエストに応じつつ、技術と知識、人員などを投じて、珠洲市の災害復興のため3社総力を挙げて業務に取り組んだ。
――本業務をどのように進めていったのか教えてください。
古市:まず、被災状況調査の第一段階として既存の調査結果の整理、そして第二段階として詳細調査が必要な箇所の現地踏査を行い、効率的な調査を実施しました。

古谷:第一段階の調査結果の整理については、国土地理院、TEC-FORCE(被災状況調査)、珠洲市など様々な機関の調査結果を収集し、その多様なデータをGISデータベースとして一元化し整理した上で、調査が不足している地域や項目を明らかにしました。
島:第二段階の現地踏査について、まずは市内中心部の飯田地区(市役所から約1.0㎞)に、仮設の現地事務所(現地対策本部)を開設し、現地踏査の拠点とすることで迅速な対応ができる体制を整えました。 次に市内全域の未調査部分の現地踏査を行うにあたって、当時はまだ被災建物の公費解体や、閉塞・復旧していない道路が多く、自動車では通行できない狭い道もありました。そのため、一般原動機付自転車(フル電動自転車・モペット、折り畳み可能なオフロードタイプ)を2台購入し、自動車+電動自転車による現地踏査を行いました。
現地踏査は第一段階で整理したGISデータベースを活用し、建物の被災状況や津波浸水痕跡などを現地でプロット入力することで、効率のよい作業に努めました。



古谷:調査結果の分析については、被災状況と各種データとの重ね合わせ(例:「建物の被害×築年数・構造」、「津波被害×地理的特性」など)により、市街地における脆弱性・改善点の抽出や、被災状況をわかりやすく伝えるためのGISで一元的な見える化を行いました。
古市:上記の被災状況調査及び分析の結果を踏まえ、被災状況に対応した市街地整備に当たっての基本条件の整理を行い、市街地の復旧・復興の方向性の検討を行いました。
珠洲市、国、当JVを含む関係者が集まる合同調整会議は1回/月、発注者である国交省との打合せは1~2回/月、継続的かつ密に実施することで本業務の円滑な執行の推進に努めました。
――CHAPTER 03
珠洲市の人々に寄り添い、イベントを通して築き上げた一体感
当JVの提案項目であった現地事務所の敷地内を活用して、市民にとってのコミュニケーションの場となるよう「市民が気軽に集える屋内外イベント」を令和6年9月8日(日)に実施した。
イベントは、珠洲市を拠点に復興活動を行う「繋ぐプロジェクト」の地元メンバーと協力し、被災者の様々な声(復興に関する想いや意見等)を聞ける環境づくりに努めた。イベントの概要としては、カフェ、紙芝居、秋冬服・玩具提供、縁日(くじ引き、輪投げ、綿あめ、ヨーヨー・スーパーボールすくい、お菓子すくい、ドリンク提供)、ひまわり摘み体験、珠洲市の復興に関する意見を募るなど様々な催しを実施し、延べ206人の来客者に楽しんでいただいた。

――イベントを通じてうれしかった出来事、印象に残ったエピソードはありますでしょうか。
古市:イベントに参加いただいた方はみなさん能登半島地震の被災者であり、市内の遠くの地域から足を運んでいただいた方も多くいました。そのような状況にも関わらず、イベントに参加され、今後の復興に関するご意見をいただき、帰り際には運営側の我々に笑顔で「ありがとう」と言ってくださいました。珠洲市民の方の心の豊かさ、災害に負けない力強さなどを感じました。
古谷:イベント開催は13:00~17:00の4時間と限られた時間でありましたが、ひっきりなしに来客者が訪れ大盛況でありました。また、イベントには女優の常盤貴子さんや、地元のサポートメンバーなども参加いただき当JVメンバーと一体となれたことが、イベント成功につながりました。イベントの準備に尽力いただいたアルスコンサルタンツ株式会社の力が大きかったと考えます。
島:関東、中部に在住されている日本工営都市空間株式会社、大日本ダイヤコンサルタント株式会社の技術・営業の社員の方が、イベント運営のため珠洲市まで来ていただき、イベント当日(朝の早い時間から夜まで)の準備~片付けも含め、イベントを盛り上げてくれました。JVとしての3社内の絆はイベントを通じてより一層深まったと感じました。

古市:イベント内容はどれも好評であったが、特に「ひまわり摘み体験」は素晴らしいアイデアであったと感じました。イベント開催はどうしても一過性のものであることが多いのですが、参加者にひまわりの種を持ち帰っていただき、今度は参加者が花を咲かせることで復興への想いをつなげることは素敵ですよね。
島:イベントの開催に向け炎天下の中でひまわりを咲かせ、お世話することはかなり大変でしたが、参加者の笑顔で報われました。
ひまわりは当社の瀧上社長のアイデアでありました。今後、公費解体などが進みまちなかに空き地が点在していくことで寂しい風景に少しでもならないよう、ひまわりによる花の環が市民にひろがり、復興への想いとともに、元気を分け与えることができるよう願いを込めました。
今後の展望として、令和7年3月22日に七尾市内で始まった、空き地に花を植えることで被災地に憩いの空間をつくる「一人一花in能登半島」のような取組みにつなげていければよいと考えます。


――CHAPTER 04
3社JV(共同提案体)だからこそ達成できた業務
本業務の成果は被害状況の全容把握、復興計画策定、インフラの復興、災害公営住宅の建設など、全てに関わる基礎的な調査結果であり、迅速かつ多くのステークホルダーとの調整が必要な業務であった。
また、本業務履行期間中の9月には奥能登豪雨が発生し、1月の能登半島地震に相次いで珠洲市は災害に見舞われた。そのような状況もあり、本業務の工期も延長され、約1年に渡って業務を実施し完了させた。
――本業務を振り返って、何か感想を一言ずつお聞かせください。
島:本業務は、地域のネットワークやローカル性を熟知している「当社」と、全国的な事業者ネットワーク、豊富な経験とノウハウを有する「2社」がJVとして一体となり、厳しい現場環境や様々な課題を乗り越え業務を達成することができました。
当社は今後も石川県の地元企業として、珠洲市をはじめとした県内の復旧・復興に社員一丸となって取り組んでまいります。本業務以外にも引き続き両社とは良好な関係を継続していきたいと考えます。
古谷:本業務を通して、珠洲市の魅力であった美しく豊かな里山里海の風景や、市民の暮らしが一変したことがより一層わかりました。地域の人々が長い年月をかけ築き上げてきた伝統や文化、自然との共生などを大切にして、これからの時代にあった復興計画につなげて欲しいと考えます。
当JVの3社は引き続き、能登半島地震からの復旧・復興に貢献していきたいと考えます。
古市:能登半島地震から約1年以上が経過した現在においても、珠洲市の復旧、復興はまだ十分に進んでいないのが現状です。また、珠洲市が抱える過疎(人口減少)や高齢化といった社会課題や地方自治の財政面の厳しさなど、多くの課題もあります。当JVが作成した調査結果を活用し、よりよい復興計画の推進につなげていくことを期待します。
今後は当JVの3社がそれぞれの社業を通じて、引き続き能登半島地震からの復旧・復興に力添えできたらと考えます。

RECRUITMENT
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