
新年。「たまには真面目に」未来からの提言!
1.今年もよろしくお願いします!
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
新年にあたり、今回は少々真面目に・・・。というのも今後、この国でも必要な事項を書きます。 当時は、まったく評価されませんでした。早すぎたのと都合の悪い方々がいたからです。
実は、日本は様々な社会システムが「後進国」なんです。公共事業の発注システム自体も、皆さん何の疑問も持っていないと思いますが、世界的に見れば後進国です。
私は、未来から来ているので、先が見えています(笑)。
これを実際に経験し、それまでなんとなく感じていた「マネジメント志向への目覚め」がありました。これが大きな収穫でした。様々な制限の中で人を動かし、組織を動かす難しさ!これは、実際にやった人間でないとわかりません。
プロジェクトの終了後、帰国すると建コン協では認められなかったが、橋梁メーカーやゼネコンからはアプローチが多数あった。これらを中心に「橋梁PFI研究会」を立ち上げ、会員数は大手企業33社になった(ゼネコン、橋梁メーカー、造船・重工など)。
講演会や国への提案も行ったが、取り上げられないものの、一部の方々には興味を持たれた。しかし、その逆も多かった。様々な意味で不都合な方々が多かったのだ。
2.韓国高速道路PFI(その1:真面目編)
インフラへのPPP/PFI適用は、成熟化社会へ向かう今後を考える上で非常に重要な課題であり、様々な事業に適用が可能である。
また、その形態も様々であり、今後の各方面での工夫・アイディアが望まれるところである。まあ、国はお金があるので当面は必要ないが、財政的に脆弱な自治体には必要である。
これまで公共事業は官から直接受けるものであり、決められた部分を実施すればよかった。ほとんどの専門家といわれる皆さんも勘違いしているが、実はこれは事業の一部分である。
事業執行には雑用的なものや政治的な部分もあり、官庁の人間はこちらに時間をかける必要がある。しかし、技術論に走りがちである。事業の展開は、課題も多いが希望も大きい。
私が韓国で実施できたプロジェクトは、日本では遅れている「道路事業のPFI事業」である。2000年から6年間行った。自分の専門である鋼橋を中心にプロジェクト全体のサブ・リーダーとして、事業全体のマネジメント、工程管理や財務管理、法的管理、役所との折衝、打ち合わせや現地調査も行った。
最初の1年は韓国に滞在し、主にコンサルが実施した設計成果のリスクチェック、法的手続きのチェック、工程の管理、実施計画などを行った。道路のルートの検証も行った。
後の5年間は、いわゆる施工管理,CM(コンストラクション・マネジメント)業務で、現場の進行状態をチェックし、実施工程の監理をおこなった。立場上サブであったが、主リーダーはほとんど不在であったため、実質的リーダーとして現地の韓国側も認めていた。
当時、韓国は活気にあふれていた。
若者の活力が日本とは異なっていた。公共事業に対する取り組みも、PFIをはじめCM等新しい制度の取り組みが積極的になされていた。国民の活力と新しい取り組みに脅威を感じた。それを今回は書く。
3.プロジェクトの背景と概要
事業の名称は、『The Daegu-Daedong Express Highway Private Investment Project』である。
日本語では「大邱―釜山高速道路民間投資プロジェクト」と訳せる。このプロジェクトは韓国第二の都市である釜山(プサン)と第三の都市である大邱(テグ)を結ぶ全長約82kmの高速道路の建設及び運営維持管理を、民間企業が自ら資金を調達して実施するものである。このプロジェクトは韓国版PFIプロジェクトの第1号であり、国の内外より大きな注目を浴びていた。
事業を請け負う会社は、『Daegu-Busan Expressway Co., Ltd.』(大邱―釜山高速道路会社(以下「事業会社」とする。))である。
これは、プロジェクト実施のために設立された専門会社(Special Purpose Company、SPC)であり、大手ディベロッパーの現代(ヒュンダイ)産業開発など複数の韓国企業より構成される。最大出資者である現代産業開発は、韓国建設業界最大手である現代建設の関連会社である。
高速道路の建設費の総額は、2兆90億873万ウォンである。これは、当時の日本円で約1,950億円に相当する。
事業会社はこの建設費の約60%を自己資金で、残りの40%(800億円相当)を融資によって調達する計画である。融資は複数の銀行から構成される融資団が行った。
日本の第一勧業銀行(当時)は、融資団の主幹(LeadArranger)を務めた。融資団には、他に韓国産業開発銀行などが加わっている。
融資団は、事業会社と直接に契約を結ぶ一方で、確実に資金が回収できるように技術コンサルタントや法律コンサルタントと契約し、プロジェクトの妥当性の検討を行った。
今回、私は融資団のテクニカル・アドバイザーとして、事業会社らが行った設計や計画の技術的妥当性のチェックやリスクのアドバイスをする役割を担っていた。事業会社との契約者は韓国の『Ministry of Construction and Transportation』(建設運輸省)である。事業会社はその契約を通じて、政府から道路事業の事業権(コンセッション)を取得していた。
コンセッションの内容は、いわゆるBOT方式である。自らの資金での建設(5年)・運営(30年)を行い、その後、施設を政府に返還するというものである。
事業の実質的な監理機関は、『Korean Highway Corporation』(韓国道路公社(以下「KHC」とする。))である。
KHCは日本道路公団のような特殊法人であるが、建設運輸省から委託を受けて事業を監理する。またKHCは、独自に施工管理コンサルタントと契約し、両者が事業の監理を行うこととなっている。高速道路の建設は、事業会社からの委託を受けた建設企業体が行った。
表 1 事業会社の構成及び出資比率
会社名 | 出資比率 | |
1 | Hyundai Development Company | 29% |
2 | Daewoo Corporation | 19% |
3 | Kumho Industrial Company Ltd. | 15% |
4 | Korea Heavy Industries & Construction Company Ltd. | 11% |
5 | Daelim Industrial Company Ltd. | 10% |
6 | Songchon Construction | 10% |
7 | Kyungdong Company Ltd. | 5% |
8 | Hyupsung General Construction Corporation | 1% |
本プロジェクトの目的は、釜山と大邱を直接結ぶ高速道路を建設することにより、両地域間の円滑かつ効率的な交通・流通を実現することにある。
2000年、釜山と大邱を結ぶ主要なルートには、国道25号線、Kyungbu Experssway(京釜高速国道)、Kuma Expressway(邱馬高速道路)/Namhae Expressway(南海高速道路)の3つがあった。
直線距離が最も短いのは国道25号線であるが、当該路線は一般道であり、山岳地帯を通っているため多くの走行距離、走行時間を要する。従って、京釜高速国道または邱馬高速道路/南海高速道路が主に利用されていた。
京釜高速国道と邱馬高速道路/南海高速道路はKHCによって運営されているが、上述のように両高速道路はかなりの迂回路となっている。国道25号線を利用する場合に比べると、時間は短縮されるものの絶対的に多くの時間を要する。
釜山―大邱高速道路が建設した場合、距離にして最大34km、時間にして20分~30分の短縮効果が期待される。
計画道路は延長約82.05km、全線片側2車線、上下4車線の有料高速道路である。高速道路の両端にはそれぞれ東大邱(大邱側)と大東(釜山側)にジャンクションを形成し、既存の高速道路に連結する。
インターチェンジは、東大邱、慶山、清道、北密陽、南密陽、三浪津、上東、大東の7箇所で計画。
また、同路線では105の橋梁と13のトンネル、2箇所の休憩所が計画。建設は2005年の9月に完了し、同年10月に全線開通した。
4.アドバイザーの仕事
最初の1年間は、事業会社が実施した構造物・施設の設計及び施工計画について、主に以下の項目において技術的な側面から審査を行い、プロジェクトの妥当性を評価するものである。
①構造物の妥当性(構造、品質、安全性、耐久性など)
②工事費の妥当性
③施工計画、工事期間
④環境(ルート上のレッドリスト生物の調査、環境負荷)
評価項目を道路、橋梁、トンネル、環境、契約に分類し、各分野にスタッフを配置し評価を行った。
なお、本業務ではサブコントラクターとして韓国の現地法人である『Pyong Hwa Engineering & Consulting Co. Ltd.』(平和コンサルタント)と契約を結んだ。平和コンサルタントの役割は、情報収集や資料の解読、事業会社とのコミュニケーションを支援することである。
現地に入ると、平和コンサルタントは道路・環境・構造の分野について、それぞれのカウンターパートを用意していた。コミュニケーションは、原則として英語を用いた。が、時間が経つにつれ面倒になり「お前らが日本語を理解しろ」と指示した。
仕事をスムーズに進めるために、昼飯と晩飯は一緒に食べ、飲みにも行き、休日は遊びにも行った。剣道の試合もした。
そして何よりも、それぞれに“愛称”をつけて呼ぶことにした。
韓国は「金(キム)」の割合が多いので、当然メンバーの中にもおり、彼らの部下にもいた。ちなみに私に対して、彼ら韓国人側がつけた愛称は、「サムライ・ボス」。日々は愛称で呼びあい、親近感を持たせた。
しかし、サムライ・ボスとは征夷大将軍である(笑)。
表 2 韓国人のカウンターパート構成
氏名 | 私が付けた愛称 | 備考 | |
1 | Dr. Park | ドクター・パク | 会長・工学博士・PE |
2 | Mr. Kwon | コン社長 | 社長 |
3 | Mr. Jung | テーさん | 副社長・PE |
4 | Mr. Kang | カンさん | 副社長 |
5 | Mr. Kim | ハイウエー・キム | 道路部・理事・PE |
6 | Mr. Kim | ストラクチャー・キム | 構造部・PE |
7 | Mr. Seo | トンネル・ソウ | 構造部 |
8 | Mr. Sim | シム君 | 環境部 |
9 | Dr. Lee | ドクター・リー | 工学博士・PE |
[仕事内容]
(1)審査
本プロジェクトの対象区間には橋梁が105橋ある。全橋梁に対し詳細な審査を行うことは膨大な時間と労力を要するため、全橋梁105橋を対象とした傾向分析と、選択した45橋を対象とした詳細照査の2段階に分けて行った。
1)構造物の傾向分析(105橋+トンネル13本)
橋梁(105橋)、トンネル(13本)の配置の妥当性、その個々の設計計算書・設計図面について設計条件・計算結果の応力状態等の主要事項を照査し、本プロジェクトの設計方針を把握するとともに、妥当性、安全性を審査した。
2)対象橋梁の選定、Inventoryの作成および評価
設計の妥当性等の照査を全橋梁105橋について詳細に行うことは、膨大な時間と労力を要する。
本照査は構造形式ごとに橋長が上位のものを抽出し、その45橋を対象にInventoryを作成し、設計数量を分析した。
つまり、韓国内の他の高速道路の橋梁と相対比較することにより照査した。この45橋は本プロジェクト道路の全橋梁延長(23.3km)の約83%を占めている。
日本的には、「設計の標準化」の適用である。
日本でも会計検査院が良く行う手法である。私は長年「設計標準化」「標準設計」をライフワークとしており、会計検査院に対しても講習会などを行っていた経験が非常に役立った。多数の構造物を一気に照査するには、必須の手法である。だが、なかなかこれが世の中では理解されていない。
事業初期段階において限られた時間の中、照査していくうえでInventoryを考えて照査していくことは、韓国政府にも認められた。
この考え方はそれまでの私の標準設計、設計標準化の考え方を運用したものである。これは実はマネジメントの基本なのであるが、意外と日本では馬鹿にされる傾向にある。まあ、それが戦争に負けた原因の一つでもあるのだが、多くの方々は理解できていない。
(2)評価
1)橋梁設計
設計時点のKHCおよび韓国の示方書により設計されている。ただし、示方書の改訂がおこなわれており、設計変更も行われている。
韓国の示方書は、日本とアメリカの良いとこ取り的な構成となっており、日本の示方書とほとんど同じである。図等は日本のものと同一のものであった。荷重も日本の設計荷重とほぼ同様である(ただし、戦車荷重が異なる)。
設計応力度の余裕は許容応力度の70~80%程度にしておくことが、設計全般の思想であることが感じられた(日本では100%)。韓国の設計思想の方が日本よりも維持管理等の面において合理的である。
事業会社へ問題点の指摘に対しては、前向きに受け取ってもらえた。
指摘事項としては各分析、図面照査の結果から橋梁の設計、工事費の積算の結果については重大な問題点は無かったが、今後の設計見直しにおいて配慮すべきこととして指摘した。
2)現場施工
現場における施工期間は5年間であり、82kmをこの工期で施工するには、日本よりもハイスピードで実施しなければならない。
施工業者や施工機材の問題もあり当初危ぶまれたが、韓国の地盤は安定しており、日本と比較して耐震対策が不要な部分もある。トンネル等の現場を見るとかなり安定している。盛土も日本のイメージとは異なり、“ズリ”というイメージであった。
構造物も設計が日本の設計と近似しているため、ほとんど同様のイメージで施工されていった。後から考えると、日本の施工スピードが異常なのかもしれない。
国際的には、日本の施工工程は遅すぎると感じた。
5.今後の展開へ
今後、我が国においても新たな事業手法は避けては通れない。これを見つけていくのもマネジメントである。
世の中では「財政難」と言われれ久しく、公共事業は抑制されてきたが、新たな手法で公共事業を実施していくことは必要である。
我が国の公共事業は、国際的にみてかなり遅れている。遅れているがゆえに、効率の悪いシステムとなっている。
低廉かつ良質な公共サービスを実現できるのか?経済の活性化となるのか?真剣に考えるべき時期に来ている。如何にパートナーシップを築き、信頼され、協力者を見つけていくかが勝負になるのではないか?それぞれの得意分野を活かして、リスクをいかに小さく、回避するかが重要ではないか。
CMに関しては、国土交通省が何件か試行的に実施した。しかし、民間側から見れば「発注者の支援、下請け」業務になってしまった。というのが飾らない評価であるのではないか。
韓国の良い点は、新しいものを積極的に取り入れる姿勢と官と民の技術的論争が公平に行われるところだと感じた。日本も「技術立国」を唱えるのであれば、公共事業の世界でも、技術的な公平な議論ができるようにしていかなければ発展は望めない。
インフラの老朽化や国土強靭化に対応していくためには、新たなシステムが必要であり、それをみんなで構築していかなければ悲惨な未来が待っている。
公共事業は今後、様々な形態で成り立っていくものと考えられる。公共事業は悪と言われ、事業費が抑制されてきた。
しかし、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、能登半島地震+豪雨等の大災害や、12年前の高速道路のトンネル崩壊のような事故を未然に防ぎ、災害を最小限にとどめ、国民の安全・安心を確保するためには、そろそろ日本でもあらたな公共事業構築のための「新たな仕組み」が必要である。しかし、この国では語られない。
新たな年にあたり、さらに活動と発信を強化しなければならないと考えている。私ももう歳なので、残された時間は少ない。
PPP/PFIは単にその手法だけが重要なのではなく、公共事業の新しい姿を模索するうえで重要かと思っています。インフラへのPFIの適用も韓国では2000年から実施されており、ヨーロッパでは1980年代から実施されてきました。
しかし日本ではまだ実施されていません。
「公共事業への民間活力導入は必須!」
「マネジメントが国を救う!」
次回は、「韓国ソフト編!」

インフラメンテナンス 総合アドバイザー
植野芳彦
PROFILE
東洋大学工学部卒。植野インフラマネジメントオフィス代表、一般社団法人国際建造物保全技術協会理事。
植野氏は、橋梁メーカーや建設コンサルタント、国土開発技術研究センターなどを経て「橋の専門家」として知られ、長年にわたって国内外で橋の建設及び維持管理に携わってこられました。現在でも国立研究開発法人 土木研究所 招聘研究員や国土交通省の各専門委員として活躍されています。
2021年4月より当社の技術顧問として、在籍しております。
RECRUITMENT
私たちと一緒に
未来を描いてみませんか?
アルスコンサルタンツの仕事は、未来をつくること。私たちと一緒に、「まち」を支え、「まち」の未来をつくりませんか?