植野が斬る!

水を制する者は天下を制す!

1.はじめに

今回は、「水門メーカー」に関して書く。

橋梁メーカーでは、造る楽しさは感じられた。しかし、「裏設計」が非常にバカらしかった。最近の方々はあまり裏設計に関して、知らない方々も多い。
しかし、当時は、コンサルが受注した、もしくは、する予定の鋼橋に関しては鋼橋メーカーが実際には設計していた。そもそもが橋梁メーカーの設計部では、どういうことをやっていたかと言うと、
①受注した国土交通省、県、市町村などの設計照査(一応設計はコンサルがやったことになっている)
②旧公団関連(道路公団、首都公団、阪神公団 等)の詳細設計
③工場からの依頼対応
④営業からのサービス設計
⑤技術開発
であった。この中で①に関しては、実際にはメーカーが行っていたものが多い。

まあ、これがなかなか、・・・・相手にもよるが、理不尽なことの繰り返し。役所に打ち合わせに行くたびに、設計条件まで変えてくる奴がいる。
コンサルの中には当時でも、自分たちできちんと設計している会社もあった。実はこの辺は当時の建設省も把握していた。この裏設計はコンサルの利益を上げるが、技術力は落とす結果になったと考えている。 そんな折に、大学時代、公私共にお世話になった先生が顧問をしている、老舗の水門メーカーで、橋梁の専用ラインを構築しようとしているので、手伝ってくれと言われた。

2.水門メーカー

まあ、よく考えずに、今よりは面白いだろうと引き受けた。学生時代にアルバイトでこの企業の実験や解析を行っていたので顔見知りも多かった。しかし、結果的にこの会社に居たのは半年ほどであった。

この企業は水門の老舗であり、転倒ゲートやゴム堰などを得意としていた。東京ディズニーランドの機械式で動く装置などもやっていた。水門は鋼構造物であり機械である。

ここでも、裏設計は横行していた。その数が尋常ではない。確かに水門の設計は橋梁に比べると、パターン化しているので、合理的にこなしていたが、十分な検討などの時間は無いに等しい。特に金沢にもある設計会社などは異常に多かった。若手社員に「これで楽しいのか?」と聞くと、うんざりだということであった。日本のゆがんだ商習慣だ。これでは、技術者は育ちにくい。ましては、コンサルは実際には育たない。
官庁は知っているのか?と疑問に思ったが、後で分かったことだが皆把握されている。暗黙の裡に認めているだけであった。まあ、大人の事情と言う物だろう(笑)。しかし、合理的ではない。

私が在籍中の短い期間にも橋梁の受注はそれなりに有り、製作したが、一番記憶に残るのは、国土交通省の某ダム事務所発注の30m程度の鈑桁橋の仮組検査である。立会検査の1日前になっても仮組が進んでいなかった。工場の作業上の問題で遅れていた。工場仮組とはいえ、通常最低でも1週間はかかる。部材を製作しながら組んでいくこともある。
しかし、明日は検査だ。今更検査延期も言えない状態。何とかしなければならない。幸いにも部材はできていた。橋梁に関しては、すべての権限をもらっていたので、工場長や生産管理課長と協議して、通常は仮組ヤードで組むのを、工場内の天井クレーンを使って組んだほうが、早くて効率的だと進言した。工場内を整理し、仮組み立て用の架台を敷き、組み立てた。天井クレーンの下に立ち図面を手に、クレーン運転手に、指揮して部材を組み立てていった。大変だがなかなか面白い。自分の指示通りに組みあがっていく。大きなプラモデルを造る感覚である。
翌朝までには無事事故もなく終わらせた。これには、役員はじめ工場の職員や営業課員たちにも感謝され、何よりも、自分の指揮で組み上げたことがうれしかった。工場のおっちゃんたちにお礼を言うと、彼らも充実感を久しぶりに味わったとのこと。工場長からは気の毒な思いをさせたとねぎらわれたが、我が意を得たり!自分の指示通り物事が動く実感を今までになく味わった。

翌日、国交省の検査官が数名来た。真夏の灼熱の日だったために、工場上屋の中に組まれた橋を診て、まず、第1声が「ありがとうございます。気を使って上屋の中に組んでいただいて。こんなの初めてです。温度による変異も少なくてよいですね。」とほめられた。
「はあ、まあ。今日は暑いですね。」と答えたが怪我の功名だった。実は徹夜でくみ上げたとは言いえず、苦笑したが、こういう修羅場の経験も技術者には必要だ。                  

この後、ここでも水門CADの開発などを部下を使って行った。しかし、約束通り、解雇してもらった。

この会社の、若手社員は皆優秀だった。男性3人、女性2人いた。私が入ってきてから、若手社員が変わったと多くの人たちから言われていたが、私が辞めたら、皆、辞めてしまった。そんなつもりはなく、たった半年一緒に仕事しただけだったが、皆思う物があったのだろう。それぞれ、大手に再就職している。そのうちの1人は、私が昔いた会社に入ってきた。(実家が、つくばだからという理由による。)

今回伝えたいのは、常識にとらわれない工夫が必要であるということ。常に考え、修羅場でもどうしたら最良の結果が出るか?工夫こそが、仕事をはじめ、自分の生き方にとって重要なのである。これがあってこそ、納得がいくはずである。これはマネジメント、リスクマネジメントにつながる。

次回に続く!

インフラメンテナンス 総合アドバイザー

植野芳彦

PROFILE

東洋大学工学部卒。植野インフラマネジメントオフィス代表、一般社団法人国際建造物保全技術協会理事。
植野氏は、橋梁メーカーや建設コンサルタント、国土開発技術研究センターなどを経て「橋の専門家」として知られ、長年にわたって国内外で橋の建設及び維持管理に携わってこられました。現在でも国立研究開発法人 土木研究所 招聘研究員や国土交通省の各専門委員として活躍されています。
2021年4月より当社の技術顧問として、在籍しております。