システム開発
私の職歴のなかのエピソードを皆さんの参考にしていただきたい。
1.はじめに
今回は、「システム開発」に関して書く。土木の世界ではシステム化が遅れている。
設計やCADのソフトに関しては、ご存知だと思うが、結局は市販のソフトを使っているのがほとんどではないだろうか。実績はあるものの、精度や中身に関しては、公的確認をしていないのがほとんどだ。かつて、土木の解析や設計ソフトに関して認証しようと試みたことがあるが、なぜかどこかから止められた。
さらに私が感じるのは土木の業界だけでなく、日本にはシステム化の実績がある人間が非常に少ない。デジタル庁ができたが、いったいどれだけの効果が出せるのか?
2.システム開発
1980年代の半ば過ぎからは、橋梁設計においても、基本的な方法に本格的な自動設計システムが運用され始めた。
まだまだ、利用するには高額で、大型の橋梁は自動設計、中小橋梁は手計算という時代だった。自動設計は大型計算機のバッチシステムとして運用されており、その開発費は膨大で、大手企業では自社で開発運用していた。また、計算機自体も大型で空調設備も必要であり、専任のオペレーターを採用していた。
パソコンなどは無く、報告書や設計計算書も手書きが主流。社内では、作業の効率化を考慮し、簡単なプログラム作成やデータベ-スのシステム開発も考案されたが、それも一番若かった私の仕事となった。
入社4年目の夏、部長から、「主要橋梁メーカー20社で共同開発会を発足させ、CAD/CAMシステムの開発をすることになった。横河橋梁(現:横河ブリッジ)に出向してくれ。」と言われた。
横河橋梁では約1年半、半地下室でのシステム開発に携わった。この当時のCADは現在のようなものではなく、汎用機(大型計算機)で開発した。苦労して図化プログラムの仕様書を毎日作成した。このときの仲間とは、今でも交流がある。同じ釜の飯を食った仲間である。
その後、この経験から、不本意ながら「CADや自動設計の専門家」と言われるようになった。この時学ばせて頂いたのが、自動設計やCADのようなシステムを構築する際に重要なのは、「標準化」「最適化」の思考である。設計部分では各発注者の基準類を精査し、図化部分では形式や部材を洗い出していく作業を徹底的にやらなければならず、非常に勉強になる。
プログラミングは、システムエンジニアに任せるので、その方々への指示を、「仕様書」と言われる指示書で渡す。文章だけでは伝えられないので、マンガを描き渡すわけであるが、なかなか真意が伝わらない。この文章とマンガで伝える手法は、後の韓国での仕事で役に立つ。
また、寄せ集めの、立場も経歴も違った人間が集まり、1つの目的に向かい限られた時間内で成果を上げることこそが「プロジェクト」であり、それをやり遂げる難しさを感じた。
3.使う側と創る側
例えば、様々なシステムを皆さんは日ごろの業務で活用されていると思うが、中身のことを考えて使っているか?と言うことである。
システムを開発するときに開発者とすれば、できるだけ機能を持たせ万能に近い物を開発することが理想となる。しかし、そうすると開発費が膨らんでしまいかねないので、機能に制限を持たせることになる。簡単に言うと、すべてを自動化できれば良いのだがそうはならない。
機械の一番の強みは単純作業を数多く早くこなせるところ。逆に不得意なところは、考えること、判断するところである。
そういう部分は通常は「スイッチ」と呼ばれる機能で、使う人間に入力してもらうことにより、機械側の負担を軽くすることが行われている。これを理解して使うかそうではないかで効果が大きく変わる。ミスなどもその部分で発生することが多い。
AIなどでは、この部分も考える機能があるものもあるが、過去のものは「IFとthen」で判断していた。このAIシステムも実は、歴史的に変化している。
私がシステムに関わってからは、いわゆる自動設計と言われるもの、その図化(2次元)そしてCAD化、3次元へ、CADでも汎用CADと専用CAD、そしてAIシステムと関わり、AIも「エキスパートシステム」と「ディープラーニング」とやってきた。
現在は土木研究所で「橋梁診断システム」のAIシステム開発に参画している。本来であれば昨年度から直轄運用を開始する予定であったが遅れている。
これは、土研理事長の発案で橋梁の診断に苦慮しているところをAI化して役立てようというものである。民間企業の多数の参加と土木研究所の若手職員で行っているが、我々おっさんが5人ほど「招聘研究員」と言う形でここ数年間、若手の指導に当たっている。これがもうすぐ運用されることになると思う。
皆さんの身近なところで言えば、民間企業が開発したAIによる橋梁診断支援システムは既に自治体で導入されているが、土木研究所監修のものが出てきたときに、どうなるのかは問題がある。そういうことも知っておいていただきたい。
しかし、今回、何よりも伝えたいのは、システムには使う側と開発する側が居るということである。これは、官と民の関係にも似ているが、プロジェクトを実行し運用していくためには両方が必要だということである。
インフラメンテナンス 総合アドバイザー
植野芳彦
PROFILE
東洋大学工学部卒。植野インフラマネジメントオフィス代表、一般社団法人国際建造物保全技術協会理事。
植野氏は、橋梁メーカーや建設コンサルタント、国土開発技術研究センターなどを経て「橋の専門家」として知られ、長年にわたって国内外で橋の建設及び維持管理に携わってこられました。現在でも国立研究開発法人 土木研究所 招聘研究員や国土交通省の各専門委員として活躍されています。
2021年4月より当社の技術顧問として、在籍しております。
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